労働基準法65条3項は、妊娠中の女性が請求した場合は、使用者は軽易な業務に配置転換しなければならないとしています。この配置転換をきっかけに降格をすることができるのか。こうした問題は、マタニティーハラスメント(マタハラ)として、注目を浴びています。この点について、最高裁がその基準を示しましたのでを紹介します(最高裁判所第一小法廷平成26年10月23日判決、判例タイムズ1410号47頁以下等)。
前述の通り、労基法65条3項は、妊娠中の女性の請求により、従来の業務に比べて軽易な業務に配置転換をすることを使用者に義務づけています。
それでは、軽易な業務に転換する際に、その女性を降格することができるか。できるとすればどのような場合か。
「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(均等法)」9条3項は、女性労働者が妊娠、出産したこと等を理由として不利益取扱をすることを禁止しています。そこで、女性労働者の請求により、軽易な業務に配置転換をした際に、降格をすることが均等法9条3項に違反するのかどうかが問題となります。
この点について、前述の最高裁判決は、結論として
軽易業務転換をきっかけとして、降格処分をすることは均等法9条3項の禁止する取扱に当たる
としました。
しかし、他方で、
①当該労働者について自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき
または、
②使用者が降格措置をとらないで軽易業務への転換をさせることに円滑な業務運営や人員の適正措置の確保などの業務上の必要性から支障があり、降格措置が均等法9条3項の趣旨目的に実質的に反しないと認められる特段の事情が存在するとき
は、均等法9条3項の禁止する取扱にあたらないと判断しました。
妊娠した女性労働者から、簡易業務への転換請求がなされた場合には、以上の点に留意をし、降格をするかどうかを検討する必要があります。
尚、この判例で問題となった事案では、簡易業務への転換をきっかけに降格をしたことに加え、その女性労働者が育児休暇から復帰した際に、元の地位(副主任)に復帰に戻さなかったことが育児・介護休業法10条に違反するかどうかについても問題とされています。
従って、妊娠に伴う業務転換を検討する際には、その時点での業務、地位について検討すると同時に、出産、育児休暇の後の業務についても、検討し、話し合いをすることが求められます。