イナックスメンテナンス事件は、主にお風呂やトイレといった水回り関係の出張修理の仕事をしているCE(カスタマーエンジニア)と呼ばれる方たちの団体交渉権を巡る闘いです。CEは、雇用(正社員)の場合と同じような働き方をしています。しかし、会社との契約書が「業務委託」とされて個人事業主扱いをされているばかりに(名ばかり個人事業主)、組合を結成して団体交渉を申し込んでも、会社が応じないのです。
組合は労働委員会に訴え、労働委員会は会社に団体交渉に応じるよう命令を出しました。しかし、会社は応じず、東京地方裁判所に命令の取り消しを求める訴訟 を起こしました。東京地裁は会社の訴えを退けたのですが、控訴がなされ、東京高等裁判所は組合側逆転敗訴の不当判決を出してしまったのです。
組合側が上告し、最高裁判所での審理となりました。最高裁は、高裁の結論を維持する場合には、弁論を開かずに判決してしまうことがほとんどなのですが、今回、最高裁が弁論を開くことを決めたのです。これによって、組合側が再逆転勝訴し、「団体交渉に応じよ」という労働委員会の命令が再び維持される可能性が高くなりました。
東京高裁の判決は、「業務委託」契約とされればそれだけで団体交渉を否定するに等しく、労働の実態を十分よく見ようとはしていません。本来、「業務委託」 契約をした個人事業主であれば団体交渉権がないという理屈は、個人事業主は独立した立場で仕事を受け、会社の指揮命令に属さないからこそ成り立つものなのです。しかし、実際には「業務委託」とされながらも会社の指揮命令下に置かれている労働者(名ばかり個人事業主)は沢山います。実態をよく見て判断しなけ れば、会社側はその気になれば、労働者を指揮命令下に置きながら団体交渉は封じるという「いいとこ取り」をやり放題になってしまうのです。団体交渉は、立場の弱い労働者が自らの権利を守るために会社と交渉するための手段なのですが、それを封じられると、事実上会社に逆らうことは不可能になってしまいます。 会社の言いなりになるしかなくなってしまうのです。
同じような問題で団体交渉を求めている新国立劇場事件も、最高裁で弁論が開かれることになりました。
この団体交渉権の問題について、何らかの共通の判断基準が示されるものと思われます。
これらの事件以外にも、名ばかり個人事業主の形態で働いている方たちは大勢おられます。それらの方の団体交渉をする権利についての重要な問題ですので、最高裁には労働者の権利に根ざした良識ある判断をしてもらわなければなりません。