1 今年の夏も全国各地で猛暑となり、9月に入ってもまだまだ暑い日が続いております。熱中症警戒アラートも何度も出され、熱中症予防の重要性が周知されていますが、職場の中で働く人が熱中症にならないように使用者としてはどのようなことをしておく必要があるのでしょうか?
この点に関して、サウジアラビアに出張していた労働者の方が熱中症で死亡し、その責任が会社にあるかどうかが問題となっていた事案で、今年の2月13日福岡地裁小倉支部で会社の安全配慮義務違反を認める判決が出されましたので、紹介させていただきます。
2 熱中症の予防については、厚生労働省から以下のような通達・マニュアルが出されています。
・熱中症の予防対策におけるWBGTの活用について(平成17年7月29日)
・職場における熱中症予防対策マニュアル(平成21年7月2日)
これらの通達・マニュアルの中で強調されているのが暑さ指数(WBGT値)をきちんと測定して、熱中症予防に活用するということです。この暑さ指数というのは、熱中症を予防することを目的として1954年にアメリカで提案された指標で現在世界中で広く活用されています。気温に加えて、湿度や日射なども考慮するため、同じ気温であっても湿度などが違えば暑さ指数も変わってきます。
3 判決ではこれらの通達やマニュアルなども参考に、この暑さ指数をきちんと測定し、暑さ指数が基準値を超える場合にはより徹底した熱中症対策をすべきということを述べた上で、今回の事案で会社側が気温を測定したり一定の熱中症予防の措置をしていたことは認めつつも、湿度を測定しておらず暑さ指数を確認する意識を欠いていたことを指摘しました。そして、今回の現場の暑さ指数が基準値を超えていたことから、作業をしている労働者の健康状態に留意し、水分や食事がどのぐらいとれているかきちんと把握したり、作業開始時や休憩時はもちろん、作業中であっても、頻繁に巡視をして声をかけたりして、労働者の健康状態等を把握し、体調がすぐれない労働者については作業を中止させるなどの措置を講ずべき義務があったとして、これらの義務を果たしていなかった会社の会社側の安全配慮義務違反を認めました。
4 熱中症はときには命の危険をももたらすものであり、働く人のいのち・健康を守るために、特に今年の夏のような暑い日が続く中では、職場でしっかりとした熱中症予防を行うことが求められます。
今回の判決も参考に、今後、使用者としては、会社側に熱中症予防のためにまずは暑さ指数が基準値を超えていないか確認し、超えている場合にはより徹底した熱中症対策を行うことが大切であり、労働者としても使用者がきちんとこれらのことを行うよう求めていくことが大切になります。