姓名は、他人から見てその人個人を特定するための符号としてとても大切な役割を果たしています。そして、姓名はその人にとっても自分自身のアイデンティティを支えるものとなります。しかし、自分を表す符号としての姓名が、時に苦痛を与えることもあるようです。
氏を変えたい。名を変えたい。そんな希望がある場合、どうしたら良いのか整理をしてみました。
1 氏を変えたい
現在、日本では選択的夫婦別姓制度が採用されていませんので、結婚すると夫婦の一方は他方の氏を名乗ることになります。結婚によって氏の変更が生じます。しかし、夫婦が破綻し離婚することになった場合、法は氏を変更した方の当事者が、結婚していた時の氏(婚氏)をそのまま名乗り続けることを選択することを認める一方、元の氏に戻る機会も与えています(復氏)(民767条)。離婚以外でも、配偶者と死別してしまった他方の配偶者は、結婚によって氏を変更していた場合、離婚と同様、届出によって元の氏に戻る権利が保障されています(民751条)。
それ以外にも、養子縁組によって養親の氏になった子が離縁した場合も、離婚の時と同様に、縁組みによって得た氏(縁氏)の続称を選択することもできますが、元の氏にもどる権利が保障されています(民816条)。
では、結婚や養子縁組、離婚や死別、離縁の場面でなかった場合、氏の変更は認められないでしょうか。この点、戸籍法は、氏の変更について「やむを得ない事情」があると家庭裁判所が許可した場合にのみ、これを認めるという取扱にしています(戸107条1項)。
どういった場合に「やむを得ない」と判断してもらえるのか。一般に「氏の変更をしないとその人の社会生活において著しい支障を来す場合」と説明されますが、長年戸籍上の氏「A」とは違う氏「B」を名乗って社会生活を営んできていて、周囲は「Bさん」として認識していると言う場合が上げられます。ただ、裁判所はこのような事例ばかりではなく、離婚時に子どもがいるので婚氏を続けて利用すると決めたが、子どもが大きくなったから元の氏に戻りたいといったような事案や離縁の際に縁氏を続称したがやはり元の氏に戻りたいという場合、比較的容易に「やむを得ない」事情があると判断する傾向にあります。
2 名を変えたい
では、名前を変えたいという場合はどうでしょうか。名前の方は、出生時に届出されたものが、結婚や離婚、養子縁組に関わらず、ずっと利用される前提となっています。しかし、「キラキラネーム」などと言ったりしますが、時に親に付けられた名前が本人にとっては苦痛を伴うようなものになる場合も否定できません。そのような場合に親が名付けたからといって、ずっとその名前に拘束するのは気の毒というものでしょう。
戸籍法は、名前の方の変更については、氏の変更よりも要件を緩和して、「正当な理由」さえれば裁判所の許可を以て変更できるものとしています(戸107条の2)。正当な事由とは、名の変更をしないとその人の社会生活において支障を来す場合をいい、単なる個人的趣味、感情、信仰上の希望等のみでは足りないとされています。このため、このアニメキャラと同じ名前になりたいから等と言われても裁判所は許可しないでしょうが、例えば、親から虐待を受けてきており、名前を呼ばれる度に当時のことを思い出してしまうなど、他人をなるほどと思わせる事情があれば裁判所の許可を得やすいと言えるでしょう。