労働者が業務に従事中に事故で怪我をしたり、場合によっては死に至ったりした場合、労働災害事故として、治療費や休業補償、事案に応じて一時金や年金など、各種の補償が労働基準監督署を通じて支払われます。
しかし、同じく注文や指示を受けて働いていても、「労働者」ではなく「個人事業主」だと労災保険の支給はありません。フリーランスとして働いている人や「一人親方」は、請負や業務委託といった契約の形式で判断されると「個人事業主」となり、労災保険は支給されません。それでも、そうした人たちの中には実際には労働者と変わらない働き方をしている人がおり、契約上、個人事業主とされているのは、その人達がそのような働き方を望んだというより使用者の側の都合でそうしていることが多いのです。
昨年9月には、「アマゾン」の配達員として働いていた60代の男性(契約上は個人事業主)が、配達業務中に怪我を負ったことについて、横須賀労働基準監督署は労働災害と認定しました。
翌10月には、品川労働基準監督署が、都内の会社と業務委託契約を結ぶフリーカメラマンの男性が通勤中に遭った交通事故を労災と認定しました。
これらの労働基準監督署の判断は、契約の形式ではなく、配達員やカメラマンの業務の実態から実質的に判断して労働者であること認定しています。労働者であるかどうかの判断にあたっては、雇用契約、請負契約といった契約形式にいかんにかかわらず、いろいろな要素を総合考慮して判断されます。例えば、仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由があったのかどうか、専属だったのかどうか、業務遂行上の指揮監督がどの程度だったのか、報酬の支払い方がどうであったのかなどです。
先のカメラマンの場合は、繁忙期は注文者からの仕事だけで月200時間働くこともあり、他の仕事を受ける余裕はなく、撮影行為自体には裁量があるものの撮影場所や時間は注文者の意向に拘束され、注文者から撮影件数に関係なく月ごとの固定報酬が支払われた。カメラ以外の機材も会社から無償提供されていたということで、労働者であると判断されました。
ちなみに、労働者と認められる場合であれば、労働災害発生について使用者に安全配慮義務違反などの過失が認められる場合には、労災保険ではまかなわれない損害(慰謝料など)の賠償を使用者に求めることが可能です。
「一人親方」として作業に従事中に事故で死亡した事案を当事務所で取り扱いました。その方は、一人親方対象の特別加入の労災保険には加入はしていたのです。しかし勤務の実態からして「労働者」ではないかということで、遺族の方が労働組合の援助を受けて、本来の労災の補償を申請し、労基署は労働者性を認めて労災保険が支給されました。その後、使用者の安全配慮義務違反を理由に、使用者らに損害賠償請求の訴訟を裁判所に提起し、高等裁判所で和解が成立して賠償金の支払を得ることが出来ました。