弁護士会の人権擁護活動にて、再審法の改正を求める活動をしています。再審とは、確定した刑事裁判に誤りが見つかった場合に、「裁判のやり直し」をする手続です。
私自身は、刑事弁護の中で有罪無罪のギリギリの決断を迫られる事件をこれまで請けたことはありませんが、日本社会の中では、死刑か無期懲役刑という重い有罪判決が確定した後に、日本弁護士連合会が支援して再審で無罪になった冤罪事件が9件あるそうです。死刑か無期懲役となった重大な刑事事件で、警察の捜査も検察官の起訴も裁判官の裁判も最大限に慎重に行われたはずです。しかし、無実の罪なのに、いつ死刑執行となるかわからず生命を脅かされたり、20年以上刑務所に入れられ人生の時間を奪われた人が存在するのです。
最近も再審公判の報道があった「袴田事件」は、57年前の1966年に静岡県で4人を殺害したとして強盗殺人罪などで死刑が確定した袴田巌さん(87歳)の事件です。本年3月13日東京高等裁判所の再審開始決定は、45年という半世紀近い身柄拘束と、87歳という高齢で再審手続が続いているという驚きをもって欧米メディアでも速報されました。ギネスブックで「世界で最も長く収監された死刑囚」(1968年9月~2014年3月)として袴田さんが認定されているとのことです。国連でもかねてから日本の刑事司法制度における人権感覚の乏しさが問題視されています。
刑事裁判は、無実の人を罰したり、その結果真犯人を逃してしまうことのないよう厳密に適正に行われますが、それでも間違いはあり得ます。有罪の根拠となった証拠が虚偽や捏造されたり、他に無罪の明らかな証拠が新たに見つかった場合には、裁判をやり直ししなければ正義に反するとして、法律上そのような場合に再審を求めることができます。しかし、現状は再審までの道程は遠く狭き門なのです。強盗殺人で無期懲役刑を受けた「布川事件」の桜井昌司さんは2011年に冤罪が晴れて無罪となるまで44年掛かりました。2019年に再審無罪となった「松橋事件」は、2016年熊本地裁、2017年に福岡高裁が再審開始を認めましたが、検察官が不服申立をして長引かせ、再審請求から無罪まで7年掛かりました。裁判官が判断を間違えるから冤罪が生じるわけですが、警察が捜査して集めた証拠でも、検察官が有罪立証のために最小限度で裁判に出すので、裁判官がすべてを見ることはありません。弁護人さえ見られない捜査資料は多く、無罪に使える証拠を弁護人が知らないこともあります。なぜ、これほど冤罪が晴れるのに時間がかかるのか?なぜ、無罪の証拠が見つからないのか?と思いますが、それは、現在の再審の法制度が、たった19条の規定で、法律で定まっていないことが多いので、担当する裁判官の裁量で進められているからです。
そのため、弁護士会では、以下の2点を求めています。
1 再審請求手続における全面的な証拠開示の制度化
これにより、警察・検察の集めた証拠をすべて明らかにすれば、弁護人らが無罪の証拠などを発見できるようになります。
2 再審開始決定に対する検察官の不服申立ての禁止
裁判所が過去の有罪判決を覆すのは簡単ではないところ、再審をするべき判断したのなら、検察官もそれに従うべきです。
全く覚えがないのにある日突然に冤罪が降りかかるおそれは、実は誰にだってありえます。冤罪は、その人が失う物があまりにも大きいだけでなく、本当の犯人を逃してしまい、正義に反します。皆さまには、新たな再審法の制定に応援いただきますよう、お願いいたします。