ことのはぐさ

2023.11.01 弁護士 古本剛之|いらない土地は国に引き取ってもらえる? -相続土地国庫帰属制度利用の検討例-


 本年4月27日から施行された相続土地国庫帰属制度(6月20日付のことのはぐさでも紹介しています)ですが、実際に利用を検討した例がありましたので、紹介します(当事者の承諾の上で掲載しています)。

 

 父が亡くなって数年経ってから、父名義のままになっている地方の山林の土地があることがわかりました。さして広くもない土地で、固定資産税評価も極めて低く、そのために固定資産税もかかっていなかったのです。
 まず、相続について遺産分割を行い、登記をする必要があります。
 ただ、この土地について父から何も聞いたこともなく、どんな土地かわかりません。価値もないので、このまま放っておいても問題なさそうですが、遠方の土地で、管理もできないため、近隣に迷惑をかけることがあれば、トラブルのおそれもあります。また、将来、相続の度に登記手続きが必要になります。

 そのため、 相続土地国庫帰属制度を利用して、国に引き取ってもらうことを考えました。

 

 この制度を利用するためには、①建物がある土地(建物を解体してから申請)、②抵当権が設定登記されている土地、③境界が明らかでない土地 ではないことが必要になります(他にも要件はあります)。
 ①②については、登記簿上は問題ないことが確認できました。③については、現地を確認しないとわかりません。①についても、未登記建物があるかどうかは現地を見ないと確認できませんが、本件土地については、その可能性はなさそうでした。

 仮に利用できるとして、申請においては、実際の現地の状況、境界の写真を撮って、報告書を作成する必要があります。
 このため、申請するためには、実際に現地に行かなければなりません。ただ、1度も見たことがない土地なので、現地に行っても、どこが当該土地か、わからないかもしれません。
 もし、現地に行って、当該土地がどこかすぐにわかり、境界も明確に残っていれば、往復の交通費と滞在費プラスアルファ程度の費用で申請できそうです。申請が通れば、10年分の管理費(特に問題のない土地で20万円)を支払うことになります。合計費用は30万円程度かと思えました(これでも結構な額ですが)。
 もし、現地で当該土地がどこかわからない場合、境界がどこかわからない場合には、調査の費用が必要になってきます。そもそも境界自体が明確でない場合には、隣地所有者と協議して境界確定をしていかなければなりません。隣地所有者を調べる必要があり、隣地所有名義人にも相続が生じていれば相続人調査が要ります。境界画定の訴訟が必要になってくることも考えられます。そのような場合には、費用は100万円を超えるものとなる可能性もありました。

 そのような費用を払ってでもこの制度を利用するかは、難しいところです。今のところ、何の費用も生じていません。ならば、わざわざ費用をかけてこの制度を利用する気にもなれず、しばらく置いておいて、何か問題が生じたときに検討する、ということになりました。

 

 おそらく、このような判断になる事例は多いのではないかと思います。この制度は、所有者不明土地を減らすために作られたようですが、もう少し利用しやすいものにしなければ、利用者も少なく、所有者不明土地解消の効果も期待できないのではないでしょうか。今後の法改正で、もっと利用しやすい制度になっていくことを期待します。


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