最近よく売れている本に「ふしぎなキリスト教」(講談社現代新書)という新書があります。ユダヤ教とキリスト教が1冊の本で理解できるということで、評判がよいようです。私も読んでみて、すくなくとも、「わかった」ような気がしました。これをきっかけに、犬養道子さんの「旧約聖書物語」と「新約聖書物 語」も読んでみたのですが、映画や小説などに出てくるお話のネタが聖書の中に満載であることがわかり、びっくりしました。「アダムとエバ」、「ケインとアベル」、「バベルの塔」「ノアの方舟」、「モーゼの出エジプト」、「サムソンとデリラ」、「ダビデとゴリアテ」、「ソロモン王とシバの女王」などなど、す べて、旧約聖書に出てくるのです。その中でも人気のある話の一つが「ヨセフ」の物語。ユダヤ民族の3代目にあたるヤコブの息子のヨセフのお話。彼が原因で ユダヤの民族はエジプトに住むようになったとか。その後、そこから出て行くということで「モーゼの出エジプト」に続いていくのです。
このユダヤ教とキリスト教は親戚のようなもので、イエス自身としては、新しい宗教をつくるつもりはなかったのではないかと言われています。いわば、ユダヤ教の中の「宗教改革」という気持ちで布教活動を行っていた。イエスが亡くなった後、パウロがイエスを「神の子」だと強調して、別の宗教が誕生してしまった。だから、ユダヤ教とキリスト教は、ほとんど同じで、違いは、イエスがいるかどうかに尽きる、と「ふしぎなキリスト教」では強調しています。イエスは、 それまでのユダヤ教の「預言者」ではなく、「神の子」と位置づけられた。今までは、神と人間だけがいて、人間である「預言者」が神の言葉を人間に伝えていた。ところが、キリスト教では、イエスが「神の子」=「神」として、登場したのでした。これは、大変なことでした。一神教では、多神教とは違い、神は1人しかいないのです。ところが、イエスが「神の子」ならば、神が2人いることになる。更に、その子や親戚もいるかもしれない。それならば、イエスはいったい何者なのか。神か、人間か、それとも両方なのか。キリスト教の中でもこの点が大議論になり、「三位一体説」という教義が公会議で決定され、その他の説は異端とされていきました。
ユダヤ教の神もキリスト教の神も同じ神様です。なにせ、両方とも一神教ですので、神様が違ってくるとややこしい。この神の名をあまり表だって呼んではならないとモーゼの十戒でも言っています。この神様の名は、「ヤハウェ」と呼ばれています。しかし、神の名は徒に呼んではいけないので、聖書でも「主」とだけ書いてあり、ヤハウェとは書いていない。ついでにいうと、イスラム教も一神教であり、神は唯一ですが、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の神様は同じで す。イスラム教では、神の呼び名は、よく聞く「アラー」ですが、これはアラビア語で「THE GOD」(神)という意味だそうです。
元々の一神教であるユダヤ教徒は、現在、1300万人程度で、イスラエルとアメリカに多くのユダヤ人が住み、世界政治に大きな影響を与えています。キリスト教徒は22億人、イスラム教徒は16億人弱と言われており、この3つの宗教を信じる人が地球人の過半数を占めることになります。
グローバル化が言われる世の中にあり、一神教に触れることも無駄ではないでしょう。
ことのはぐさ
2012.12.10 弁護士 横山精一| 一神教に触れてみる