私たち女性弁護士の多くは、買春・売春のない社会を作ることが人権が尊重される社会作りの第一歩だと先輩に教えられ、日々の弁護士実務の中でそのことを身をもって知っている。それ故、今度の一連の橋下市長の買春容認発言を黙視することは出来ない。
橋下市長は5月1日、沖縄県の米軍普天間飛行場を訪問した際、司令官に「風俗業を活用して欲しい」と発言した。続いて、5月15日、記者団に市職員のわいせつ事案が増えた場合に風俗業の利用を推奨することが議論の対象になるかを問われ、「なり得る。何の罪もない人のところに行くくらいだったら、認められる範囲のところで対応しなさいよというのが本来のアドバイス。間違ったことはやめろよ。ではどうやって解消策があるかと言えば世の中にはこういう解消策があると。風俗を度外視して、どうやってアドバイスするんですかね。」と発言した。橋下市長の言い分は一言で言えばこうだ。性犯罪をやるくらいだったら、女は金で買えばいいのだ、性を売買することは日本では認められていると言うにつきる。この発言は橋下市長の持論だ。昨年8月にも同じ発言をし、問いを発する男性記者に「おたくは風俗業に行ったことはないんですか、風俗店ないんですか。ないんですか」「今までに?ああそうですか」といかにも不思議と言わんばかりの発言をしていた。
冒頭の発言に対し、16日には、アメリカから上がった批判に対し、売春・買春が認められる日本とアメリカは文化が違うと発言し、弁明したつもりでいる。
しかし、日本には売春防止法がある。56年の歴史を持ち、「何人も売春をし、又はその相手方となってはならない」(法第3条)と定めている。売春業者を処罰する規定がある。場所提供罪(第11条)売春をさせる業の罪(第12条)などだ。この規定の不発動をさせ、売春・買春は一定許容されていると思わせてきたのは日本の風俗業者とこれと手を携えている一部政治家だ。「売春防止法はザル法」と言われる実態をつくっているのは彼らなのだ。売春・買春容認発言は品性や倫理以前の、最低守るべき法に違反する発言であることに思いをいたすべきだ。
橋下市長は元飛田新地料理組合顧問弁護士であるとものの本にあった。風俗業者を持ち上げる人間が市長として適格であるかどうか言うまでもあるまい。
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私は以上の文章を朝日新聞の声欄に投稿した。しかし、私のテーマが従軍慰安婦問題は、現代の売春・買春問題につながるとの視点からのものであることからと思われるが、掲載にならなかった。いわゆる「従軍慰安婦問題」(私はこの呼び名を使わない。真実は日本軍に性奴隷にされた女性達の問題である)は、戦前の公娼制度があって成り立ったものだから(戦前は売春・買春は合法であり、兵士は罪の意識を麻痺させられていた)いわゆる「従軍慰安婦」は性奴隷にさせられたものであり、売春・買春ではないのだが、この問題を本当に真剣に解決しようとするのなら、現代日本の売春・買春問題を視野に入れた「女性の性をもの扱いにする思想」を排除することなくして考えられない。橋下市長の前記発言は日本の法によって売春は許容されている、女性を金で買うことは合法と考えている人が一般にいることを前提にして計算ずくで発言している。ちなみに大阪市の職員は約3万人と言われているが、私が市に問い合わせたところ、性犯罪等で昨年1年間に懲戒されたのは8人ということであった。
従軍慰安婦問題を考えるこの機会に現代の売春・買春問題を考え、「性の奴隷」を人権の視点から考え直す機会にする世論を起こしたいと切に思う。