ことのはぐさ

2022.08.15 弁護士 小林保夫|安倍元首相殺害をめぐるマスコミのあり方-安倍元首相と自民党への「忖度」を批判する-


 私は、参議院議員選挙の投票日の前々日、奈良で、安倍元首相が殺害された事件の報道をめぐる新聞・テレビなどのマスコミの対応について、強い違和感、不信感を覚えた。
 マスコミは、おおむね、犯人である山上徹也が、取調警察官に対して、「特定の宗教団体の名称を挙げて、これを恨む気持ちがあった。」、「安倍氏がその団体とつながりがあると思い込んで狙った。」、「安倍氏の政治信条にうらみはない。」(例えば朝日新聞7月9日朝刊)と供述したと報じていた。
 そして、この犯行について、これもマスコミはほとんど異口同音に、例えば同日付朝日新聞は、この記事に添えるように社説を掲げ、「銃弾が打ち砕いたのは民主主義の根幹である。全身の怒りをもって、この凶行を非難する。同時に、亡くなった安倍元首相に対し、心から哀悼の意を表する。・・・長く政権の座にあった元首相ともなれば、その実績は受けるだろう。そうだとしても、凶器により生身の肉体をもって、裁かれるいわれはまったくない。・・・まずは捜査当局に、事件の背景の徹底究明を求める。有権者は、大きな驚きに耐えつつ、投票日に臨もう。」と「弔辞」を捧げた。
 この犯行についてコメントを求められた政治家はもちろん、評論家もおおむね朝日新聞の社説と同旨の意見・感想を寄せた。そしてその後、「特定の宗教団体」が元統一教会であること、安倍元首相やその叔父である岸信介元首相が、統一教会と深いつながりを有していたこと、多くの信者が多額の寄進の結果家庭崩壊や破産に追い詰められていたことや、犯人の母親が統一教会に入信し、多額の寄進を投じ、そのため犯人の家庭が崩壊し、破産を余儀なくされた事実が報じられるに至った現在まで、同旨の意見・感想が引き続いている。
私は、とりわけマスコミは、安倍元首相や自民党への「忖度」を断ち切れていないことに強い違和感、不信感を覚えているのである。
 ほとんどのマスコミは、統一教会の実態や岸信介元首相や安倍元首相がこの統一教会と深い政治的つながりを持っていたことについては、その論拠となる多くの事実を把握していたのであり、報道のあり方からすれば、犯人の凶行や同人の弁解について、その背景となっていたこれらの実態を、客観的に報ずるべきではなかったか。
 もし、このような報道が行われていたら、市民の投票行動は、安倍元首相への哀悼の気持ちを超えて、凶行の背景となった統一教会と深いつながりを持つ関係者の多い自民党への批判的心情を反映したものとなっていたのではないかと考えざるを得ないのである。


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