1 建物賃貸借契約の保証
賃貸マンションなどを借りる場合、親族等が賃貸借契約書の連帯保証人欄に署名・捺印をすることがある。この場合、賃貸人と連帯 保証人との間で連帯保証契約が成立する。
その後の明渡しの際、賃借人が家賃の滞納をしていた場合や建物に傷をつけたことに伴う損害賠償債務を負っていた場合、連帯保証人は賃借人が負う債務と同じ責任を負う。
最初の署名・捺印時、連帯保証人は、自分が将来どれだけの責任を負うことになるか分からず、ときに、予想外に高額になることもある。このような保証は「根保証」と言われる。
いくら高額になっても、連帯保証人は、原則として、賃借人の債務全額の責任を負い、特別な事情がある場合に限り、信義則違反等を理由に責任を一定範囲に限るというのがこれまでの裁判実務であった。
2 新民法(2020年4月施行)の取り扱い
2020年4月施行の新民法では、連帯保証契約時(連帯保証人欄への署名・捺印時)に、連帯保証人が負担すべき債務の上限額(極度額)を具体的に定める必要があり、その定めがなければ、連帯保証契約は無効とされることになった。
2020年4月以降に新たに結ばれた契約は、新民法の定めに従って処理される。連帯保証人は自分の責任範囲を予め知ることができるから、大きな変更である。
もっとも、上限の決め方について法の定めはないから、上限額(極度額)があまりに高額であれば、後日、争いの余地は残る。
3 旧民法下の契約が新民法下で更新された場合の取り扱い
2020年2月(旧民法下)に期間2年の契約をした場合、2022年2月(新民法下)に更新時期を迎える。更新をして住み続け、将来、賃借人が債務を負うことになった場合、2020年2月の契約書に署名・捺印した連帯保証人の責任はどうなるかという問題である。
更新のしかたは次の3つが考えられるであろう。
(1)2022年2月に賃貸借契約書を作り直し、賃借人、連帯保証人とも署名・捺印した場合
更新とは言え、新民法下で新たに賃貸借契約及び連帯保証契約を結んだのと同じであるから、新民法が適用され、新しい賃貸借契約書に連帯保証人の責任範囲(極度額)を定めていなければ、連帯保証契約は無効になると考えられる。
(2)2022年2月に賃貸借契約書を作り直すが、その契約書には、賃借人のみ署名・捺印する場合
連帯保証人からすれば、新しい賃貸借契約書に署名・捺印していないから、「自分はお役御免で、2022年2月以降は責任を負わない。」と言いたいところであるが、そう簡単ではない。
参考になるのが、最高裁判例平成9年11月13日である。
賃貸人・賃借人の合意により賃貸借契約書を作り直したが、連帯保証人は署名・捺印しておらず、後日、連帯保証人は、「新しい契約書を作り直した後に生じた賃借人の債務について責任を負わない。」と争った。
しかし、最高裁は、最初の連帯保証契約は、特別な事情がない限り、更新後の賃貸借から生じる賃借人の債務についても責任を負う趣旨で合意されたものと解すべきとして、連帯保証人の責任を認めた。
この最高裁判例の考え方に従うなら、2022年2月に連帯保証人が署名・捺印しなかったからと言って、責任を免れることはできず、かつ、旧民法が適用される(特別な事情がない限り、全額の責任を負う。)ことになると考えられる。
(3)2022年2月に賃貸借契約書の作り直しをしない場合
この場合、最初の賃貸借契約は法定更新され、家賃その他の契約条件は同じままで、期間の定めのない契約となる(借地借家法26条)。
上記最高裁判例の考え方に従えば、この場合も、上記(2)と同様、最初の連帯保証契約は、法定更新後の賃貸借契約から生じる債務を負担する趣旨であったと解され、連帯保証人は責任を免れることができず、かつ、旧民法が適用されることになると考えられる。
(4)連帯保証人の責任範囲を限定する実務の定着が重要
2020年4月から新民法が施行されたとは言え、旧民法下で結ばれた賃貸借契約及び連帯保証契約も多く残っており、その連帯保証契約については旧民法が適用されるため、今後も紛争が生じるおそれはある。
もともと新民法で個人根保証に上限額(極度額)の定めを置くことにしたのは、後日、連帯保証人が予想外に高額の債務を負わなければならないことが問題であると考えられたからである。
その趣旨を活かすなら、将来の紛争をできる限り避けるために、新民法下で更新を迎える際には契約書を作り直し、その中で連帯保証人の責任に上限額(極度額)を設定していく実務が定着していくことが望ましいのではないか。