ことのはぐさ

2021.08.24 弁護士 渡辺和恵|皆で考えよう・語り合おう 夫婦同姓の強制は憲法違反


 最高裁判所は、またもや去る(2021年)6月23日、「夫婦同姓の強制は憲法に違反しない」との判断をしました。平たく言えば、婚姻という法的効果を持つ行為をしたければ、同じ姓を名乗れということです。世界の国々190ヵ国以上の国の中で「夫婦の同姓を強制する国」は唯一日本国のみとなったと上川陽子法務大臣自らが認めたのに、「夫婦の選択的別姓」すら認めない国て、何なのでしょう。


 裁判所で「民法750条の夫婦の姓(氏)は同一とするとの規定」「戸籍法74条1号の婚姻手続は夫婦同一の氏を届け出るの規定」は、「憲法13条の個人の尊厳」「憲法24条の婚姻に関する事項は、個人の尊厳と両性の平等に立脚して制定する」に違反する、「最高法規に違反する法律は無効」の判断を求めた訴をまたもや棄却したのです。


 日本国憲法が制定されるまでは、法制度上婚姻すると女性は無能力者となり、姓(氏)は「夫の氏」を名乗るとされていました。日本国憲法が制定され、民法も改正され、夫婦はいずれかの姓(氏)を名乗るとされましたが、新民法制定後、76年、今日も戦前の家父長制の名残りは社会文化として生きていて、約96%の夫婦が夫の姓(氏)を名乗ることを事実上強制される現実は変わっていません。


 一方社会は、女性が学齢期を過ぎ社会人になり、職業を持ち、キャリアを築き、婚姻する時に姓(氏)を失うことは、それまでのキャリアを失うことを意味するまでに成熟しました。世界に目を転じれば、女性の人権の伸長は目ざましく、姓(氏)を名乗る権利は「人権」(生まれながらにして持っている人間尊重の仕組み)と位置付けられるようになりました(国連女性に対するあらゆる形態の差別撤廃条約、日本も1985年に批准)。


 それにもかかわらず、最高裁判所は「夫婦同姓の強制を解消するかどうかは、国会が決めることで、裁判所は口出しできない」と判断したのです。この論理は6年前の2015年の12月の最高裁判所も同じでした。裁判所は国政に口出ししないという消極主義は国会の怠慢を合理化する論理です。最高裁判所は国会で作った法律、行政府が決めた処分が国民の権利を侵害する時、人権侵害を救える最高機関としての義務を負います(憲法98条1項)。国会の立法が真面目にこの問題に取り組んだ実績がない事実の前に、最早、裁判所は黙っているべきではないと反対意見を言った最高裁判所裁判官もいます。


 2015年の裁判に関与した女性のある裁判官は15人の裁判官の合議の場で、自分のキャリア形成の中で姓(氏)の変更がどんなにマイナスに働いたかを話したところ「夫の氏を選択したのはあなただろう」と最高裁判所の男性裁判官から一蹴されたというエピソードを語っています。彼女は今まで官僚の世界で通称とされていた姓(氏)を戸籍にある姓(氏)でないと最高裁判所裁判官に任命しないと宣告されています。


 夫婦同姓を強制する論者は、別姓になると夫婦親子の一体性が損なわれると大真面目顔で言う人たちがいます。夫婦同姓の下で離婚が年間20万件前後あり、DVが急増する事実の前にこの反論は無力です。別姓で子どもが戸惑うとの論も、日本を除く世界中の子ども達にその弊害があるとの報告はありません。


 今、どの世論調査でも「選択的夫婦別姓」に7割~8割の人が賛成しています。選択的夫婦別姓は同姓の選択を認めているのですから、同姓に賛成する人はこれを選択する道があります。今、ジェンダー平等が世界中で叫ばれるようになりました。女性が自分の意思で自分の人生を選ぶ権利があること、人間の尊厳が守られる社会、換言すれば世界の人口の半分が古いしきたりを脱して、伸びやかに生きる世界は他の人間にとっても必ずや各々の人格を認め合う社会の実現の一歩になるのではないでしょうか。


 夫婦の選択的別姓を認める国の仕組みは、小さな変革に過ぎません。理由もなく人権が虐げられる仕組みの一角が無くなることは、全体の国の有り様、そして国民の意識の変革を必ずやもたらすでしょう。


 皆さんも、この制度について家族、隣人、親しい人をきっかけに話し合って、互いに意見を言い合える大きな輪を作って下さい。各々の英知が集まる楽しさを皆で共有しようではありませんか。


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