ことのはぐさ

2018.09.12 弁護士 渡辺和恵|児童虐待は社会問題


1. 児童虐待問題の法制化

 平成12年児童虐待防止法が制定され、「児童虐待」とは保護者が子どもに身体的虐待・性的虐待・ネグレクト・心理的虐待をすることを言うと規定されました。これは国連子どもの権利条約の採択(1989年)、日本の批准(1994年)を経て、子どもの権利を擁護する動きの大きな一つです。児童虐待という言葉のない時から、子ども達の悲痛な声を聞いてきた弁護士の私としては、この動きを嬉しく受けとめました。

 

 児童相談所(以下児相と略)の児童虐待の相談対応件数は平成29年度は13万3778件で児童虐待防止法施行前(平成11年度1101件)と比べて100倍以上にもなっています。児相への通報が制度化され、驚くばかりの増え方です。都道府県別では大阪が1万8412件で最多でした。その上、虐待死は殆どの年で50名を超え、その8割が5才以下というのですから、社会問題化することが急がれます。

 

2.親支援がなければ児童虐待は解決しない

 どうしてこんな悲惨なことが起こるのでしょうか。どうしたらなくせるのでしょうか

 例えば、父と母が加害者になる場合です。夫がしつけと称して、あるいはうるさいと邪険に子どもに暴力を振るっていることを知らない母は殆どいないはずです。これを止められず、場合によっては母が傷害罪や傷害致死罪の共犯にまでなってしまうのは、夫の経済面も含めて家庭支配が強固で、暴力的なDVがあることが考えられます。かって関与した事件では、父の性的虐待を訴えた娘さんを、お母さんはDVを乗り越え支え続けました。DVについてのどの統計も妻の3人に1人は「1度でも夫に叩かれたことがある」、WHOの統計でも「幼少期に4人に1人が身体的暴力を受けた」と答えていることからすれば(家庭には厳然とした暴力がありこの人達は問題を暴力で解決する方法がインプットされています)、児童虐待は特異な家庭で起こることではありません。

 

 ところで、警察関係者は児相との連携を強めることで虐待死を防ごうとの動きを示していますが、私は刑罰だけで防ぎきれるものではないと思っています。親支援・親教育が必要です。

今、児相は家庭支援担当を作り、子どもを保護されている父母に「子育てする父・母への子育ての孤立化を防ぐ」ためになどをテーマに支援学習を企画し、実施しています。受講する親にはおおむね好評のようです。刑罰の前にこのことこそ必要です。又、これが出来るケース・ワーカーが必要です。児相のケース・ワーカーは担当事件数が増大して激務ですから、専門性を持った職員をしっかり配置するには、予算措置がないと実現できません。さらに、子育てのサポート役には、保育所という子育て集団の存在と保育所の保育士さんが重要な役割を発揮しています。

 

3.一時保護や施設入所保護の考え方

 子どもを保護するために児相には①子どもを一時保護する権限(児童福祉法33条司法関与なし)があり②施設入所保護権限(児童福祉法28条)があります。

 児相は①時として子どもを保護するためとして虐待の疑いまではないのに一時保護をしたり、虐待の疑いがあるのに一時保護をしなかったり、②施設入所保護が長期に亘るなどの問題があります。

 前者については児童福祉法が2016年改正がなされ、限定的ですが司法判断がなされることになりました。その推移をみる必要があります。

 後者については、児童福祉法の改正で、子どもは家庭で心身ともに健やかに養育されるべきで、国は保護者を支援することに力点が置かれるようになり、長期化が避けられる方向が見えてきました。私は長期化により子どもに愛情障害が起こることを心配していたのでその方向を歓迎します。


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