自動車を買いたい知人や家族に頼まれて、名義を貸し、その車が事故にあったとき、名義を貸した人は、事故により発生した損害を賠償する責任があるでしょうか。
平成30年12月17日に出された最高裁判決では、名義を貸した人の責任が認められています(判例タイムズ1458号88頁以下)。
この判決のもととなった事件は、以下のとおりです。Aさんは、自動車を買う必要が生じました。しかし、Aさんは生活保護を受けていたため、自動車を所有すると生活保護を受けることができなくなると心配しました。そこで、弟であるBさんに名義を貸すように頼み、自動車を買いました。そして、その自動車を運転中に交通事故を起こしてしまいました。
そこで、交通事故の被害者が自動車の名義人であるBさんを相手に裁判を起こしました。裁判は、二点、三転しましたが、結局、最高裁では、Bさんの責任が認められました。
自動車損害賠償保障法3条は、「自己のために自動車を運行の用に供する者」(運行供用者)は、交通事故により生じた損害を賠償する責任があるとしています。今回の判例は、名義を貸したBさんがこの運行供用者に当たるとしたものです。
最高裁は、BさんがAさんに名義を貸したことについて、「事実上困難であったAによる本件自動車の所有及び使用を可能にし、自動車の運転にともなう危険の発生に寄与するものといえる」として、Bさんの責任を認めました。
この事案でAさんとBさんは兄弟でしたが、日頃つきあいはなく、疎遠な関係であったようです。これからすれば、親族関係がなくとも、名義を貸した人には賠償責任が認められる可能性が高いと思われます。
「名義を貸してもらうだけ」「迷惑はかけない」などと、言われても、名義を貸しただけで、交通事故の責任をとらなければならない可能性が高いと言えます。軽い気持ちで名義を貸すと大変なことになります。
ことのはぐさ
2019.07.02 弁護士 横山精一|自動車を買うときに名義を貸した人の交通事故の責任