まわりの認知症の高齢者の方が訳もわからずに契約を結んでしまったときに、後からその契約は無効だ!といえるのでしょうか?
認知症によって判断能力が衰えた方でも、原則その方が結んだ契約は取り消すことはできません(成年後見人等がついている場合は別)。しかし、有効な契約を結ぶためには本人に一定の判断能力(法律用語で「意思能力」といいます。)が必要となります。本人に、この意思能力が無かった場合には、契約は無効とされます。
では、どのような場合に、本人に意思能力が無かったといえるのか。これについて、参考になる裁判所の判決をご紹介します。
この事件では、認知症により要介護3の認定を受けた高齢者のAさんが結んだ根抵当権を設定するという契約について、その効力が争われ、Aさんに意思能力があるかどうかが問題となりました。
裁判所は、結論として、意思能力が無い、だから契約は無効!と判断しました。
では、裁判所は、この方に意思能力があるかどうか、どのように判断したのでしょうか?
裁判所が注目したのは、Aさんの要介護認定の際の調査票と主治医の意見書でした。Aさんの調査票には、Aさんが毎日の日課を理解することはできないことや何度言ってもすぐに忘れてしまうことなどと書かれていました。また主治医の意見書には、記憶力に問題があることや、自分の意思を伝えることができるのは具体的な要求に限られることなどが書かれていました。
これらに加えて、平成2年からAさんを診察してきた医師が、Aさんに抵当権を設定するということについて理解することが困難であるという意見書を作成していることや今回問題となった契約が複雑な契約であることから、裁判所は、Aさんに今回の契約を行う意思能力が無かったと判断しました。
このように、意思能力があるかどうかについては、その当時の本人の状況を示す客観的な資料から本人にどの程度の判断能力・理解力があったと認められるか、本人を診てきた主治医の先生がどのように判断しているか、問題となった契約がどのようなものか(比較的簡単なものなのか複雑なものなのか)、などが問題となります。
もしもこの事件のように周りの認知症の高齢者の方がわけもわからず勝手に契約を結んでしまった、そんなときには、弁護士までご相談ください。また、そのような事態を避けるために、一度成年後見制度などの利用も含めて弁護士に相談いただくのもひとつの手です。