労働災害の裁判では行政基準やこれまでの事例の積み重ねから、一定の判断の基準ができあがってきます。それでも個々の事件の事情はそれぞれ違うので、具体的な事情をきちんと主張立証していくことが大切です。最高裁判所で平成28年7月8日にでた判決もそんな個別事情の主張立証が成功した良い例だな、と思います。地方裁判所、高等裁判所では労災にあたらない、としたのですが、最高裁判所が労災にあたるとしたのです。
こんな例です。
労働者の業務上の負傷・疾病・障がい・死亡には労災保険法による給付がでますが、業務上といえるためには業務起因性、業務遂行性が必要です。この事件は、労働者が残業業務を理由に会社の歓送迎会への出席を断ったのに上司が参加を強く要請したこと、上司は労働者に仕事がおわっていなければ宴会後に自分も業務作業に協力すると言っていたこと、歓送迎会費用は事業主経費で払われたこと、上司は歓送迎の対象となる研修生を送っていくことになっていたこと、しかし上司が酔ったために労働者が上司に代わって研修生を送ったこと、送りの車は事業主所有であったこと、送り先は会社とは2キロしか離れていなかったこと、という事情があり、送っている途中に交通事故にあって死亡したことについて、労災と認めました。
この労働者の方は本当に残念なことです。会社の方針に従ったばかりに、運悪く交通事故に遭って命をなくしてしまったのですから。労災が認められても命は戻りませんが、遺族の生活には助けになります。たまたまですが、この事件の労働者の代理人弁護士は私の同級生でした。弁護士として依頼者とスクラムを組んで、良い仕事をされたな、と尊敬しています。
ことのはぐさ
2017.06.27 弁護士 井上洋子|裁判では具体的事情の掘り起こしが大切です