ことのはぐさ

2017.01.24 弁護士 井上洋子|自営業者や会社と訪問販売のクーリングオフ


 「訪問販売で、羽毛布団、浄水器、電話機などを買わされてしまった、よく考えたら生活には必要がなく、とても高価だった、この取引をやめたい。」こんな事例があることは、みなさんもよく聞かれるでしょう。また、「クーリングオフ」という言葉を聞かれたこともあると思います。
 クーリングオフとは、契約書面を受け取った日を含めて8日以内に、取引をやめる、契約を解除するという内容の連絡を、書面でもって、発信することによって、取引を中止できる手続きです。訪問販売の場合、特定商取引法の9条がその要件を定めています。
 ところが、特定商取引法は個人消費者の保護を目的としたものなので、法26条で、仮に訪問販売であったとしても、購入者が「営業のためもしくは営業として」取引をした場合には、クーリングオフなど、消費者保護の手続きを利用できない、ということになっています。
 そこで、悪質な訪問販売業者は、このことにつけこんで、売買契約書に、個人自営業者の屋号入りの商売上の判子をつかせたり、株式会社や有限会社などの会社名の印を押させたりします。

 

 もし運悪く、そんな目にあったときでも、諦めないで下さい。それぞれの具体的な事情によっては、特定商取引法の保護を受けられることがあります。裁判例で保護が認められたのはこんな事例です。電話機の訪問販売業者が個人の理容業者を訪問し、店名入りのゴム印を押させて理容店名で売買契約をした場合について、その理容店が家族経営で、営業用に電話機を利用していなかったなどの事情があったので、「営業のためもしくは営業として」取引をしたとはいえない、として理容店がしていたクーリングオフを有効としました。
 また、消火器の販売業者が自動車販売会社を訪問し、消防用設備点検作業契約書に会社印を押させ、備え付けの消火器をすべて持ち出し、薬剤充填代として代金の請求をした場合に、自動車の販売や修理を業とする会社にとって、消火器の充填薬剤の購入は営業のためもしくは営業としての購入ではない、として、自動車販売会社のクーリングオフや消火器の返還請求を認めました。
 ですから、あなたが個人事業主や法人経営者であっても、訪問販売の契約をやめたいときは、まずはクーリングオフの手続きはしておいてください。その上で、相談においで下さい。


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