養育費の減額はできるのか
離婚が成立する際に、未成年の子どもの親権者が決められます。その際、養育費の支払いについても決められる場合があります。
この養育費の額は、離婚後の事情の変化により、変更がなされることがあります。
この変更は、子どもの父母が合意すれば、合意内容がその後の養育費の額となります。
また、養育費の変更について、父母の合意ができない場合には、変更を求める親が申立人となり、養育費の変更(増額又は減額)についての調停が申し立てられ、調停でも、合意が成立しない場合には、裁判所が決定します。この裁判所が行う決定を「審判」と言います。
このような、養育費の変更について、2022年5月13日、宇都宮家庭裁判所の審判(判例時報2572号90頁)が出されましたので、紹介します。
この裁判例の注目点は、
①再婚相手と子どもが養子縁組をしていなくても、再婚相手の収入が考慮される
②再婚相手が収入資料を提出しなかった場合でも裁判所が年間所得を推定して決めることがある
の2点です。
事案の概要
父母が協議離婚し、その際、子どもの養育費として父から母に月15万円を支払うとの合意が成立しました。
その後、母は、精神科の開業医と再婚しました。子どもと再婚相手とは、養子縁組をしませんでしたが、再婚相手は、母及び子と同居し、事実上、子を扶養しています。
そこで、父が、養育費の減額を求めました。
これに対し、裁判所は、養育費を月15万円から月9万円に減額する判断をしました。
この裁判所の判断(審判)について、解説します。
裁判所の判断及び解説
第1 子どもと養子縁組をしていない再婚相手の収入を、養育費の額の変更について考慮できるか。
1 裁判所の判断
再婚相手は、再婚後も子どもと養子縁組をしていないものの、これに準ずる状態にあるとして、事情の変更にあたると判断した。
2 解説
未成年者と再婚相手が養子縁組をした場合は、親権者(本件の場合母)と再婚相手が一次的な扶養義務者となります。そのため、親権者ではない親(本件の場合父)は、原則として、子どもの扶養義務を免れることになります。そのため、養育費の支払いもしなくてもよくなるのが原則です。ただ、前述の通り、このような変更が自動的に行われるわけではなく、父母の合意、合意がない場合は、裁判所の審判が必要となります。
第2 再婚相手の収入を裏付ける資料が提出されない場合にその収入をどのように認定するか。
1 裁判所の判断
母は、再婚相手の令和2年の所得証明書を提出しました。そして、令和2年の再婚相手の収入はマイナスになっているが、その年にクリニックを開設したことによる一時的な収入の低下であると判断した。令和3年の所得証明書の提出はされなかった。
裁判所は、以上の事情と、再婚相手が精神科の開業医であることから、再婚相手の収入を標準算定表の上限である1567万円と推認した。
そして、①再婚相手が支払うべき子どもの養育費を②母の収入に加えて、父の養育費の額を算出した。その結果、父の母に対する子の養育費は、月9万円に減額されました。
2 解説
再婚相手が子どもの養育費を負担する義務がある場合、その額は、再婚相手の収入と母の収入の額により決まります。
通常は、両者の所得証明が提出され、裁判所の標準算定表に基づいて、算定されます。
本件は、クリニックの開設という特殊事情により収入が低下したと思われる令和2年の所得収入しか提出されず、実質的には、所得収入の裏付けとなる資料の提出が拒否された場合に、裁判所がどのような方法で、再婚相手の収入を認定するのかが問題になった事案です。本件は、再婚相手が精神科の開業医であることから、標準算定表の最高額として処理されました。
このように、養育費の算定には、父母の収入の確定が不可欠になりますが、収入の多い方は収入証明書の提出をしない場合があり、その場合、どのようにして収入を確定していくかが問題になります。
難しい問題ですが、全く資料がなく、生活実態がわからない場合には、賃金センサスが使われることが比較的多いとされています。