1 残業代の支払いはどのようにして決まるのか
労働基準法には、「1日8時間、週40時間」の労働時間が定められており、労働者がこの時間を超えて働くと、使用者は、割増賃金(残業代)を支払わなければなりません(労基法37条)。
これに対して、定められた労働時間以上働いても、残業代が支払われない、いわゆるサービス残業が世間でも見られます。
このサービス残業が法律に反することが明らかですが、中には、実質的には、残業代の支払いをしないような、賃金規定を作り、それを根拠にして、残業代を支払わないケースもあります。
このような「名ばかり残業代」(固定残業代)について、2023年3月10日、最高裁の判決が出されましたので、紹介します。
2 事案の概要
会社の賃金体系は、元々、①基本給、②基本給歩合給、③時間外手当の3つにわかれており、③の時間外手当は、業務に応じて月ごとに決まる賃金総額から①②を引いた額とされていました(この賃金体系を「旧給与体系」と呼びます。)。
これでは、③の時間外手当は名目だけであり、時間外労働の有無、その時間数に関わりなく決まることになり、時間外労働を規制する労働基準法37条に反することは明白でした。そのため、会社は、労働基準監督署から指摘を受け、新しい賃金体系を導入しました(これを「新給与体系」と呼びます。)。
新給与体系は、①基本給②基本歩合給③勤続手当、④時間外手当(①②③を基礎賃金として労基法に従い残業代を計算する)⑤調整手当の5つの部分に分かれるものでした。④時間外手当は労基法に従って計算されるため、問題がないようにも見えます。
しかし、これにはカラクリがあり、④と⑤の合計は変わらないように計算されることになっていました。
例えば、時間外労働が多い場合には、④の時間外手当が増える分⑤の調整手当が減り、④が減れば⑤が増える関係になり、結局、時間外労働時間にかかわらず、④と⑤の合計額が同じとなるようになっていました。そして、賃金総額は、時間外労働とは無関係に決定されることになります。
3 最高裁の判断
この点について、最高裁判決は「新給与体系は、その実質において、時間外労働等の有無やその多寡と直接関係なく決定される賃金総額を超えて労働基準法37条の割増賃金が生じないようにすべく、旧給与体系の下においては通常の賃金にあたる基本歩合給として支払われていた賃金の一部につき、名目のみを本件割増賃金に置き換えて支払うことを内容とする賃金体系であると言うべきである」と判断し、労基法に反すると判断しました。
最高裁は、いくら時間外労働をしてももらえる額が同じという賃金体系は、労基法に反するとしているのです。
4 アドバイス
本件で問題となった、賃金体系のうち、④の部分は、①②③を合計した基礎賃金から労基法に基づいて残業手当を計算しており、これが労基法に違反していることを見抜くことは、なかなか、難しい。ここには、⑤の調整給というマジックがあり、そのため、いくら残業しても給料が増えないということになります。この制度がおかしいことは、実際に働いて給料を受け取っている労働者としては、実感としてわかることだと思います。
しかし、その問題点を解明し、わかりやすく説明することは、簡単ではありません。
そこで、この実感を法律の主張にするために、弁護士に相談することをおすすめします。
以 上