1 具体的相続分はどのようにして決まるのか
まず、相続が発生した場合に、相続分がどのように決まるのかについて、説明します。
ここでは、夫に先立たれた妻が死亡して預金1000万円が遺産として残した。相続人は、長男、長女の2人とします。
この場合、法律で決まった相続分(法定相続分)は、子どもそれぞれ各1/2ずつとなりますので、相続するのは、子ども1人について600万円となります。
しかし、生前、お母さんが長男に教育費として400万円を贈与し、長女がお母さんのに療養看護の費用として200万円を贈与していたような場合、具体的相続分は、どうなるのでしょうか。
お母さんの長男に対する贈与は特別受益、長女の母に対する贈与は寄与分、と言われるものです。
このような場合には、特別受益は相続財産に持ち戻し、寄与分をなかった状態に戻します。
従って、このケースの場合、相続財産は、
1000万円+400万円-200万円=1200万円となります。
これを法定相続分で分けると、長男、長女とも600万円となります。
長男については、この金額から既に贈与を受けた400万円を引いて200万円を相続します。
長女については、この金額から寄与分200万円を足して800万円を相続します。
こうすれば、長男は、お母さんの生前に受け取った400万円とお母さんが亡くなったときに受け取った200万円を受け取った合計600万円を受け取ることになります。
他方、長女は、お母さんが亡くなったときに800万円を受け取ることになりますが、お母さんの生前に200万円を援助していますので、結局お母さんから受け取ったお金は600万円となります。
このように、特別受益や寄与分は、被相続人について、生前、援助を受けたり(特別受益)、貢献したり(寄与分)、したことを清算して、相続人間の公平を図る制度です。
2 民法改正により特別受益、寄与分の主張できる時期が10年に制限されました
しかし、今回の民法改正により、特別受益、寄与分の主張は、相続が発生したとき、すなわち、被相続人の死亡から10年経過後は、時効となり、主張できなくなりました。
この改正は2023年4月1日から施行されます。
従って、この時期以降に相続が発生した場合には、10年以内に特別受益、寄与分の主張をしなければ、たとえ、被相続人の生前に利益を得ていても、あるいは、貢献をしていたとしても、その主張をすることができません。
今回の例の場合は、長女が、特別受益、寄与分の主張をする利益がありますが、お母さんが亡くなってから10年以内に主張をしなければ、その利益を得ることができなくなります。逆に長男としては、じっと10年間待っていた方が有利になることになります。
それでは、2023年4月1日の前に発生した相続については、どうなるのでしょうか。
施行の10年前にあたる2013年4月1日以前に発生した相続については、既に10年がたっているので、2023年の時点で、時効となり、特別受益や寄与分の主張ができなくなるのでしょうか。
それでは、特別受益や寄与分の主張をする機会を奪われることになりますので、施行日より5年間の猶予期間が設けられました。
ですから、すべての相続について、少なくとも、2028年4月1日までは、特別受益、寄与分の主張をすることができます。
この時期を頭に置いて、遺産分割の協議していない相続人は、協議を検討するようにしましょう。
相続関係でお悩みの方は是非弁護士までご相談下さい。