ことのはぐさ

2022.01.24 弁護士 冨田真平|フジ住宅ヘイトハラスメント裁判高裁判決について


1 はじめに

 皆様はヘイトハラスメント裁判という裁判をご存じでしょうか?

 フジ住宅という、東証一部上場の大企業が、社内で人種差別民族差別を助長するような文書を配布し、あるいは特定の教科書が採択されるように教科書採択のアンケートに従業員を動員しました。これに対して、フジ住宅で約13年勤務するパート社員の在日コリアン女性である原告が、これらの文書配布や教科書アンケートへの動員を行った会社及び代表取締役会長に対して損害賠償を請求した裁判、これがヘイトハラスメント裁判です。

 この裁判において、2021年11月18日、大阪高裁で、一審判決(2020年7月2日)に引き続きフジ住宅及び会長が行ってきた人種民族差別的な資料配布などの違法性を認め、損害賠償額を増額してフジ住宅及び会長に132万円の支払いを命じ、さらに資料配布の差止めを命じる判決が出されました。また同時に、直ちに配布を禁ずる仮処分命令も出されました。

 

2 事案の概要

 フジ住宅及び会長は、遅くとも2013年頃から、①社内で全従業員に対し、人種民族差別的な記載あるいはこれらを助長する記載のある資料や、会長が信奉する(政治的)見解が記載された資料を大量かつ反復継続的に配布してきました。また、②地方自治体における中学校の教科書採択にあたって、全従業員に対し、特定の教科書が採択されるようアンケートの提出等の運動に従事するよう呼びかけていました。さらに、③原告が提訴すると、社内で、原告を含む全従業員に対し、原告について「温情を仇で返すバカ者」などと非難する内容の大量の従業員の感想文や(会社と密接な関係にある者の)原告を攻撃するブログを配布しました。

 このようなフジ住宅及び会長の資料配布行為や教科書採択運動への動員行為について、2020年7月2日に大阪地裁堺支部で、これらの行為の違法性を認め、フジ住宅及び会長に110万円の支払いを命じる判決(一審判決)が出されました。

 しかし、この一審判決後もフジ住宅が資料配布を辞める気配が全く無く、さらに「原告は今も在籍して働いていると思うと虫唾が走ります」などと原告を攻撃する従業員の感想文を大量に配布するなど原告に向けた攻撃もより一層激しさを増すようになりました。

 このような事態を受け、原告としては、損害賠償だけではなく、資料配布行為の差止めも求めることとなりました。

 

3 高裁判決の内容と意義

 2021年11月18日、大阪高裁は、一審判決に引き続いて、これらの行為の違法性を認め、損害賠償額を増額してフジ住宅及び会長に132万円の支払いを命じました。さらに、大阪高裁は、人種民族差別的資料や原告攻撃の資料についての資料配布行為の差止めも認め、これについての仮処分も出しました。

 高裁判決は、民族的出自等に関わる差別的思想を醸成する行為が行われていない職場又はそのような差別的思想が放置されることが無い職場において就労する労働者の人格的利益を認めました。そして、民族的出自等に関わる差別的な言動が職場で行われることを禁止するだけではなく、そのような差別的な言動に至る源となる差別的思想が使用者自らの行為又は他者の行為により職場で醸成され、人種間の分断が強化されることが無いよう配慮する義務が使用者にあると示しました。

 これは、職場内において差別的な思想が醸成されないよう積極的に配慮する使用者の義務を認めたものであり、職場におけるレイシャルハラスメント(国籍、人種、民族等を理由とするハラスメント)をなくす足がかりとなる判決といえます。

 今後も多様なバックグランドを持つ労働者が職場で安心して普通に働けるような社会を目指して頑張っていきたいと思います。


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