ことのはぐさ

2022.07.21 弁護士 冨田真平|パワハラ防止法について②~パワハラと使用者の責任~


 2019年5月に成立し、2020年6月に先行して大企業のみを対象にして施行されていたいわゆるパワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)が2022年4月1日から中小企業も含めて全面的に施行されています。

 このパワハラ防止法は、法律で初めてパワハラを定義するとともに職場のパワハラに対する使用者の責任(措置義務)を定めたものです。

 今回の記事では、職場のパワハラに対する使用者の責任について、パワハラ防止法や厚労省の指針の内容も含めて解説します。何がパワハラに当たるのかやパワハラの類型についてはこちらの記事をご覧下さい。

 

1 パワハラ防止法・指針で定められた使用者の責任

 パワハラ防止法・指針では、使用者の義務として以下のような義務が課せられています。

㋐方針の明確化及び周知・啓発(研修の実施等)

 パワハラの内容及びパワハラを行ってはならない旨の方針やパワハラを行った者に対して厳正に対処するという方針を明確化した上で、労働者に周知・啓発することが求められます。具体的には、ハラスメント禁止規定を作ってそれを労働者に周知することなどが考えられます。

㋑相談体制の整備(相談窓口の設置等)

 相談窓口(担当者・制度など)をあらかじめ定めて、労働者に周知するとともに、その窓口の担当者が適切な対応ができるようにするに教育しておくことが求められます。

㋒パワハラの相談の申出に対する迅速かつ適切な対応

 事実関係を迅速かつ正確に確認し、その上でパワハラがあった場合には速やかに被害者及び加害者に対して適切な対応をとること、再発防止に向けた措置をとることが求められます。

㋓その他合わせて講ずべき措置

 相談者・行為者のプライバシーへの配慮やパワハラの相談等を理由とする不利益な取り扱いが禁止されていることの周知などを行うことが求められます。

 

2 職場環境配慮義務

 パワハラ防止法・指針がなければ、使用者は何ら責任を負わないのかというとそうではありません。使用者は、労働者の安全に配慮するとともに労働者が良好な職場環境で働けるよう職場環境と整える義務を負います。パワハラが発生するような職場は良好な職場とはいえませんので、使用者としてはこのように職場環境を整える義務のひとつとして、パワハラが生じないようにし、パワハラが生じた場合には適切かつ迅速に対応する義務を負います。

 

3 パワハラが生じた場合の使用者の責任

 自身が使用する労働者が業務遂行中に他人に損害を与えた場合には、使用者は損害賠償責任を負います。

 また、2で述べたような職場環境を整える義務を尽くしていない場合には、その義務違反に基づく損害賠償責任を負うことになります。このような義務を尽くしていたかどうかは、㋐ハラスメント防止のための措置をきちんと講じていたか、㋑ハラスメントが発生した際に適切な措置を講じたか(ハラスメントの事実を知っていたか、十分に知り得たか、ハラスメントについての適切・積極的な調査を行ったか、ハラスメントに対する適切な措置を講じたかなど)がポイントとなります。

 

 使用者としては、以上のような義務を果たす必要がありますし、労働者としては、使用者にこのような義務を果たすよう求めていくことが必要です。


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